先生のためのアイディア帳

効果的な指導法やエトセトラについて

オールイングリッシュの授業も「i+1」で

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こんにちは。

 

英語科の先生方、2022年度末現在、授業はすべて英語でなさっていますか? 私はALTと一緒のとき以外は、恥ずかしながら、ノーです。ですが、この間たまたま自分だけの授業時にオールイングリッシュで1時間通すことになり、たまたま生徒たちも乗ってきて、結果として生徒にも私にもすごく意義のある体験が得られるという幸運がありました。

 

それで、あらためてオールイングリッシュでの授業について考え直してみようと思い、本エントリーを書くに至っています。

 

英語で授業を行うことについては、「中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 外国語編」の86ページ辺りに、このように書かれています。

エ  生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため,授業は英語で行うことを基本とする。その際,生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにすること。(下線:私)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_010.pdf

 

オールイングリッシュの授業が成功するか否かは、教員が「生徒の理解の程度に応じた英語を用いる」ことができるかに大きくかかっています。このエントリーでは、このことについて私自身のための備忘録として大切な引用をいくつかまとめておこうと思います。これを読んでくださっている皆さまの何かのお役に立てましたら幸いです。

 

それでは、まずは、上記「エ」の説明の引用から。

 

 「生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにする」については,教師が生徒の理解度に注意を払うことなく,ただ英語を使って授業を行えばよいということではない。教師の英語使用に当たっては,挨拶や指示を英語で伝える教室英語を使用するだけでなく,説明や発問,課題の提示などを生徒の分かる英語で話し掛けることが必要である。また,発話の速度や明瞭さを調整するとともに,使う語句や文などをより平易なもので言い直したり,繰り返したり具体的な例を提示したりするなどの工夫をする必要がある。さらに,既習の言語材料を用いながら教科書の内容を説明したり生徒とのやり取りを行ったりすることで,教師の使用する英語は生徒にとって効果的なインプットとなる。「生徒の理解の程度に応じた英語を用いる」とは,このような教師の英語使用の工夫が求められることを示している。(下線:私)(リンクは上と同様)

 

ここで推測できるのは、ここでの「効果的なインプット」というのは、「一段階上の言語習得につながるインプット」だろうということです。いくら "I like soccer." が「生徒の理解の程度に応じた英語」なのだとしても、そればかり繰り返していては習熟度は上がらない。だから教員は、生徒が「ちょっとわからない英語」を「ちょっとした気づきがあるとわかるやり方で」発話の中に混ぜていけるといいのだと思います。

 

「教科書では見たことがあるけれど、実際に使われているのは聞いたことがない」とか、「練習で使ったことはあるけれど、単語を変えて使われているのは聞いたことがない」とか、「CDで聞いたことはあるけれど、自分に向かって言われるのは聞いたことがない」など、初めは「ええと…?」となる英語も、「発話の速度や明瞭さを調整するとともに,使う語句や文などをより平易なもので言い直したり,繰り返したり具体的な例を提示したりする」などして、生徒に向かって使っていく。

 

こう考えると、思い出されるのがクラッシェンのインプット仮説(「i+1の原則」)です。(そのまま「アイプラスワン」と読みます。)ということで、次はこれについて引用を2つ。

 

1つ目は「i+1の原則」とは何かの説明を、Phil Western氏の記事より。

“i+1” (Input Hypothesis) was originally a theory of learning developed by the linguist Stephen Krashen in the 1970s. It basically says that learning is most effective when you meet the learners’ current level and add one level of difficulty, like the next rung on a ladder. As a language teacher I always found this defined the whole process.

"i+1"(インプット仮説)とは、もともと1970年代に言語学者のスティーブン・クラッシェンが提唱した学習理論です。基本的には、学習が最も効果的になるのは、学習課題が学習者の現在のレベルを満たし、かつ、その難易度がはしごの次の段が上がるように1段階上がっているときである、というものです。(私訳)

 

2つ目は、クラッシェン本人の文から。

The best methods are therefore those that supply 'comprehensible input' in low anxiety situations, containing messages that students really want to hear. These methods do not force early production in the second language, but allow students to produce when they are 'ready', recognizing that improvement comes from supplying communicative and comprehensible input, and not from forcing and correcting production.

最善の指導方法は、「理解できるインプット」を不安感の少ない状況で学習者に与えることです。また、その「理解できるインプット」の中には生徒が本当に知りたがっているメッセージが入っている必要があります。この指導方法では、無理矢理早くから学習者に第二言語で発話させたりはせず、生徒が「準備ができた」ときに発話できるようにします。これは、言語習得の上達は、発話を強制したり修正したりすることではなく、自分で使ったり理解したりできるインプットを学習者に与えることで得られるとのだという認識に基づいています。(私訳)(どの文献からの引用かは明記されていませんが、文献一覧はリンク先の下にありす。)

 

自分用にまとめると次のようになります。

授業中に英語で話すときには、次の3つをねらいとする:

  1. 「生徒の理解の程度に応じた英語を用いる」こと。
  2. そしてその英語は「学習者の現在のレベルに対して1段階上のレベルである」こと。
  3. そしてそれによって「学習者が自分で使ったり理解したりできるインプットを更新・蓄積していける」こと。

 

授業中は気をつけることがありすぎてそれどころではなくなってしまうかもしれませんが、あらためて、自分が授業で使う英語をもっと「効果的なインプット」にしていけるよう勉強と工夫を重ねていきたいと思います。(これができるようになって、生徒と私との間の英語での意思疎通がもっとうまくいくようになったら、それだけでお互い絶対楽しい…!)

 

もちろん、一口に「オールイングリッシュの指導法」と言ってもいろいろあって、ターゲット言語に対する生徒の理解度をそれほど気にしすぎないタイプの指導法もあります。インターナショナルスクールに見られるイマージョン教育(ある言語「で」すべての生活や学習活動が行われ、それによってその言語の習得も進む)や、タスクベース・ラーニング(与えられた課題をすべてある言語で行い、課題に取り組む過程でその言語の習得も進む)がわかりやすい例です。

 

これらも指導法としてはとても効果的ですが、1クラス当たりの生徒数を考えると、日本の一般的な学校での実施は難しいように感じられます。そうなると、折衷案として、従来の英語の授業を、教員が工夫しながらオールイングリッシュにシフトしていくのが現実的なのでしょう。(機会さえあればイマージョンもやってみたいのはやまやま…)

 

それでは、今日はこの辺りで。Happy teaching, my friends!!

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