先生のためのアイディア帳

効果的な指導法やエトセトラについて

「宿題が出せない生徒」とスケジュール管理

こんにちは。

 

今日は唐突に始めたいと思います。

 

同じ時間に同じ教室にいても、生徒が見ているものと教員が見ているものとはだいぶ違います。同じ時間に同じ教室にいたとは到底思えないほど、かけ離れることもありえます。

 

生徒と教員の間にあるこの「見えているものの違い」は、おそらく、「これから行うことをどれだけ正確に把握できているかの違い」と言い換えられると思います。

 

教員は、①その日に授業で扱う事項が何なのか、②その事項をどんなふうに扱うのか、③それを通じて何ができるようになればいいのか、そして、④なぜそのタイミングでそれができるようになることが必要なのか、というすべてをわかっています。

 

(バックワード・デザインで行くと、③&④→①→②の順で決まっていくと思います。)

  

たとえば、中3英語でいうと、教員は授業の前には、

①「今日は分詞の導入を行おう」、②「分詞が形容詞として働くことがわかるように、形容詞の位置に分詞を入れて英文が成立することを経験させよう」、③「今日のところは、『分詞=形容詞』という部分がわかればOK。不規則動詞の過去分詞形ができていなくても、今日は気にしない。もちろん、後置修飾は後回し」、④「この時点まで生徒たちは『V-ingは進行形』で『V-edは受動態』で、どちらも『動詞の一部』だと思ってやってきた。ここで『V-ingとV-edが形容詞的に働く』ということがわかることで、より説明的な表現をしたり理解したりできるようになる」

といったことすべてを把握しています。自分が授業をする側なので。

 

一方で、生徒たちは、教員がかなり丁寧に伝えない限りは、上記のようなあれこれはわかりません。

 

上記のようなあれこれをまるで把握できていないとき、英語では

“I don’t know what I’m doing.”(「自分が何をしているのか自分でもわからない。」)

と言ったりします。

 

私が経験した範囲では、生徒たちが “I don’t know what I’m doing.” 状態になっているとき、彼らの学びの質は低くなりがちです。

 

この傾向は、特に、いわゆる「できる生徒」では「ない」生徒たちの間で顕著になります。「できる生徒」たちは、何をどんなふうにどのタイミングで教えようが、ついてきてくれます。が、そうで「ない」生徒たちは、「何をどんなふうにどのタイミングで」に(彼らにとっての)脈絡がないと、十中八九、路頭に迷っていきます。

 

ただ、「路頭に迷って」いるかどうかは、パッと見ではわからないことがあります。「目の前に示されたものをとりあえずこなしていく」ことならできる、という生徒は多少なりともいて、彼らは一見すると「路頭に迷って」いるようには見えません。

 

ですが、実際には、彼らも「路頭に迷って」います。なぜなら、彼らには常に「目の前しか見えていない」からです。たとえて言うなら、地図を持っているのが教員だけなので、教員がいなくなったらその瞬間に「自分がどこにいるのか」「自分の目的地がどこにあるのか」「自分はどうやってその目的地へ行けばいいのか」というすべてがわからなくなってしまう、ということです。

 

「できる生徒」というのは、多かれ少なかれ、自分でもある程度「地図」を描くことができています。なので、教員がいなくなってもその地図を頼りに学習を進めていくことができます。

 

さて、ここからが本題です。(遅

 

「いわゆる『できる生徒』では『ない』生徒」と「宿題」。これがテーマです。

 

「いわゆる『できる生徒』では『ない』生徒」が「宿題を出せない生徒」であることは珍しくありません。

 

ここからは、彼らがなぜ「宿題を出せない」のか、また、教員はどうやって彼らをサポートできるのかを、ここまで述べた「これから行うことの把握」というポイントから考えてみたいと思います。

 

「宿題を出せない生徒」のことを、教員はよく「家庭学習の習慣がついていない生徒」と呼んだりすると思います。ただ、一口に「家庭学習の習慣がついていない生徒」と呼んでも、彼らが家庭学習をしないことの裏にはそれぞれけっこう異なった理由があるものです。

 

それらの理由をまとめると

  1. 授業がわからないので、宿題の内容もわからない
  2. 宿題の内容が授業の内容と関係ないのでわからない、もしくは、大変そうに見えてやりたくない
  3. 授業がわかっていて、宿題の内容も適切だが、宿題の量が多すぎて手が回らない
  4. スケジュール管理ができない

 

他にも、家庭の事情や体調不良で家庭学習ができない生徒はもちろんいますし、また、中1や高1で新しい環境にまだ慣れていない段階では、登下校や部活動で気力も体力も使い果たしていて、家庭学習が思うようにできない生徒がよくいます。あとは、「マジで学校の勉強も成績もどうでもいい」というアナーキストもいます。

 

上記のいろいろある理由の中でも「教員の努力と配慮で改善できる」ものとして1~4を挙げてみました。

 

この1~4の中で、このエントリーでは4だけに焦点を当てたいと思います。

 

というのも、4だけが特徴的だからです。4だけが、生徒の「学習能力にも学習意欲にも関係がない」んですよね。

 

つまり、4の理由で宿題が出せない生徒というのは、教員がちょっと配慮するだけで、途端に家庭学習ができるようになり宿題が出せるようになります。

 

「教員がちょっと配慮する」というのは、要は、「教員がスケジュール管理をやってあげる」ということです。

 

「スケジュール管理くらい自分でできるようになっていないと卒業後に困る」という見方もあると思うのですが、スケジュール管理というのは「そこそこの全体像が見えている」人にこそ可能な芸当であって、目の前しか見えていない人にはできません。

 

また、「明日提出になる宿題の指示を今日出しているだけなのだから、スケジュールも何もあるか。やって出せばいいだけだ」という見方もあると思います。教員の立場からするそう言いたくなりそうなところですが、生徒の立場からするとこれは難易度が高いのです。なぜなら、彼らは10教科、科目数にするとそれ以上の授業を受けていて、毎日それぞれの授業で何かしらの宿題が出たり出なかったりするからです。今日突然言われたことを彼らが頭の中に留めておくことができなくても、あまり責められないような気がします。

 

大人だって、スケジュール管理には苦戦するものではないでしょうか。たとえば、自分の部署のリーダーがこれから始まるプロジェクトのスケジュールを整えてあらかじめ配ってくれると、それがない場合よりは、落ち着いて自分のペースで仕事に取り組めるということがありませんか?「田中さん、明日の10時までにコレよろしく!」みたいな指示が毎日来るのとは、だいぶ違うと思いませんか?

 

そんなわけで、私はこんな雰囲気の宿題スケジュール表を作って、1人に2枚ずつ配っています。1枚は持ち歩き用、1枚は家の掲示用です。実際には、1度で3週間分ほどのスケジュールを知らせています。

 f:id:ednotes:20200208164122j:plain

ご覧の通り、やることが5種類あります。1つひとつの量が多くなかったとしても、何をやるのかを生徒が正しく記憶しておくのが難しいかもしれません。これを配っておくと、生徒たちはいつ何をやるかを「記憶」しておく必要がなくなります。

 

さらに、うまくすると、「授業の進度と宿題の出方の関連性」に気づくことができます。前半の例で言うと、この宿題スケジュール表が生徒にとって、不完全ながら、「地図」になるということです。

 

たかがスケジュール管理、されどスケジュール管理。スケジュール管理ができるようになるだけで、頭のてっぺんまで “I don’t know what I’m doing.” 状態に浸かっていた生徒も、水面に顔を出して呼吸をすることができるようになります。(陸に上がって走りだせるようになるのはまだ先ですが。)

 

この宿題スケジュール表の効果は、宿題を出せない生徒の10人に1人くらいには即表れます。残りの9人には即効性はあるときもあればないときもあるのですが、デメリットはないはずなので、1人に確かな効果があるのであれば、やってみる価値は十分にあると思います。

 

また、宿題スケジュール表を作成することのメリットは教員の側にもあります。一言で言うと、「より高い学習効果があるように宿題を出せるようになる」ということです。「生徒ができそうな内容と量の宿題を授業に一番活きてくるタイミングで出す」ことができるようになるというわけです。

 

生徒たちが複数の種類の授業を受けているように、先生たちも複数の種類の授業を担当していることが多く、また、その他の業務や校務などで毎日の授業がどうしても自転車操業になってしまうことがあると思います。そうすると、宿題の指示を出し忘れてしまったり、学校行事を考慮し忘れて、宿題をおかしなタイミングでやらせなければいけなくなったり、といったことが起きてしてしまいます。

 

そうなると、今度は上記に述べた

2. 宿題の内容が授業の内容と関係ないのでわからない、もしくは、大変そうに見えてやりたくない

3. 授業がわかっていて、宿題の内容も適切だが、宿題の量が多すぎて手が回らない

という理由で、生徒は宿題を出せなくなってしまいます。

 

こういう事態を避けるための一番の対策が宿題スケジュール表の作成だろうと私は思っています。

 

先にも述べたとおり、スケジュール管理というのは「学習能力にも学習意欲にも関係がない」ため、教員からすると「それくらいは自分でやってね」と生徒に言いたくなる領域のことかもしれません。ですが、「宿題を出せない生徒」の一部は、その領域のことでもサポートを必要としています。

 

これを読んでくださっている先生方には釈迦に説法なのだろうと思いながら、今日はこの辺りで。それではまた次回まで。Happy teaching, my friends!!

Creative Commons License