こんにちは。
「当事者の方が声を上げてくれないと変わらない」とたかまつななさんがおっしゃっているので、声を上げてみます。
過労死で亡くなる先生が後をたちません。#先生死ぬかも ではなく、実際にはもう先生死んじゃっているなのです。先生は、過労死が多い職業だと過労死白書にも書かれています。小学校の3割、中学校の6割の先生が過労死ラインを超えて働いています。何が問題か簡潔に説明しますhttps://t.co/oRV0oEMrTh pic.twitter.com/pyDJuo1nDM
— たかまつなな/時事YouTuber (@nanatakamatsu) August 15, 2020
教員の劣悪な労働環境については、複数の多様な観点(歴史、文化、財政、少子化、大学入試、学歴社会など)から論じられると思います。が、ここでは比較的具体的な「授業担当コマ数」という観点から、少しだけ小言を。
手始めに、文部科学省が教員1人あたりの授業時数(担当コマ数)を調査した結果が何かの報告書に載っていないかと思って探してみました。むむ…。少なくともこれを書いている時点では私はネット上では見つけられませんでした。
以下の2017年6月7日のベネッセの記事には「文部科学省が10年ぶりに行った、小・中学校の『教員勤務実態調査』の結果」とあるので、もっとちゃんと探せば出てくるのかもしれないのですが、ここではこの記事を引用して済ませてしまいます。
中学校は一人の負担が増える
とりわけ中学校が大変なことも、数値の奥から浮かび上がってきます。
中学校教員の週当たり授業担当コマ数は、21~25コマが49.9%、26コマ以上も含めると70.7%です。30年ほど前でさえ20コマを超えると「きつい」と言われたものですが、もうそんな泣き言さえ許されない状況が当たり前になっています。
部活動指導も、確かに激務の要因です。土日の業務時間が2時間10分と、10年前に比べ倍増しています。先生の84.4%が顧問をし、週の活動日は「6日」が49.1%、「7日」も15.1%と、3人に2人が満足な休みをとれていません。
これも、中学校1校当たりの教員数がそれほど増えず(2006<平成18>年比1.6人増の24.2人)、一人にかかる業務が集中していることが背景にあります。文科省は、単独で指導や対外試合の引率ができる「部活動指導員」を制度化しましたが、教員の負担「軽減」になるとはいえ、根本的な解決策になるわけではありません。
(下線:私)
なるほど。
ちなみに、中学校の標準授業時数(生徒が受ける授業の数)は以下の通りです。
「中学校の標準授業時数について」(平成27年7月16日中央教育審議会初等中等教育分科会資料3-3)
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2015/11/09/1363415_006.pdf
この資料ではいつまでが「旧」でいつからが「現行」なのかすらわかりませんが、とにかく、現在の公立中学校では1週間の授業時間数は29です。(平日6時間授業、ただし内1日のみ5校時で終了で、6×5-1=29。)
では、1人ひとりの教員の授業担当コマ数はどんなふうになるでしょうか。
私を例にとってみます。担当教科は英語(表中の「外国語」)で、1年生を担当しているので、1クラスあたりの授業時数は週4コマ。勤務校では1学年は1組から5組までの5クラスあり、私が1人で担当してるので、英語の授業担当コマ数は週20になります。そして、中1の担任兼担当ということで、そこに道徳(1)、特別活動(1)、総合(1.4)が加わるので、合計の授業担当コマ数が週23になります。校務分掌の会議も入れると、週24コマが埋まっています。ということは、空きコマは週に5つ、1日平均1つということになります。
この1日平均1つの空きコマで行う(ように期待されている)業務は何でしょうか。「文部科学省教員勤務実態調査-業務の分類」をそのまま写してみます。(該当ページのスクリーンショットも貼り付けますが、判読不可能な場合用に。)
【児童生徒の指導に関わる業務】
(※表中の「朝の業務」「授業」はここではカウントしません。)
- 授業準備
- 学習指導
- 成績処理
- 生徒指導(集団)
- 生徒指導(個別)
- 部活動・クラブ活動
- 児童会・生徒会指導
- 学校行事
【学校の運営にかかわる業務】
- 学校経営
- 会議・打ち合わせ
- 事務・報告書作成
- 校内研修
【外部対応】
- 保護者・PTA対応
- 地域対応
- 行政・関係団体対応
【校外】
- 校務としての研修
- 会議
【その他】
- その他の校務
- 休憩・休息(45分)
空きコマ50分以内で、上記の業務の内その日に終わらせなければならない部分をすべて終わらせる。若者が言うところの「ムリゲー」です。もしくは、コピーロボットが2体いてくれたらできるかもしれません。(私が授業準備、1人が担任業務、もう1人がその他すべて、という役割分担。)
これを読んでくださっているあなたが学校の先生であれば、はたまたそうでなくても、これが「ムリゲー」であることは自明かと思います。ただ、自明なあまり、このことについてそれ以上考えるのをやめてしまっているという場合もあるかもしれません。ここから先は、あえてしつこく「なぜ50分以内で上記の業務を終わらせることが不可能か」について考えて書いてみたいと思います。
重要なのは、上記1~18のほとんどが「『対人間』業務」だという点だと私は思います。
「2. 学習指導」で考えてみると、ある生徒が質問を持ってきたとすれば、それに答えるだけで15分かかることもあります。英語で言うと、通常の授業に関する質問以外にも、入試用の英作文指導や検定試験の模擬面接は、1人15分くらいかかります。もちろん、この所要時間は指導内容や生徒の習熟度によっていくらでも変わります。また、学力不振の生徒たちをまとめて指導するとかいった場合には、まるまる1コマ分かかることもあります。(「教員がただそこについている」という必要がある場合もあるので。)
「5. 生徒指導(個別)」「6. 部活動・クラブ活動」に関しても同様です。ただ単に指導をするだけでも一定の時間がかかりますが、さらにそこで対処すべき問題が生じたとなれば、生徒本人とのコミュニケーションに加えて、管理職、学年主任や生徒指導担当、保護者とのホウレンソウが必要な限り続くので、それに必要なだけの時間がかかります。
あわせて強調されるべきなのは、この「『対人間』業務」の「人間」には「同僚(自分以外の教職員)」も含まれるということです。たとえば、「4. 生徒指導(集団)」「5. 生徒指導(個別)」「6. 部活動・クラブ活動」「7. 児童会・生徒会指導」「8. 学校行事」「10. 会議・打ち合わせ」などは、管理職、学年主任、一緒に組んでいる先生によって、その業務にかかる時間が大きく、大きく、大きく変わってきます。(3回言ってみました。)
もし「何でも腰を据えてみんなで相談したい」タイプの先生と働くと、時間はいくらあっても足りません。一方、「立ち話でも必要な情報のやり取りと意思決定ができる」タイプの先生と働くと、大幅に時間が節約されます。ただし、後者には職人技みたいなものが要求されて、教員歴、コミュニケーション能力、職員室での人間関係といった諸々の条件が相手側にも自分側にもいい感じに揃ったときに初めて可能になるかと思います。「腰を据えて相談すべき案件」を立ち話で済ませたばかりに結果として3倍の時間と労力を費やすことになった…みたいなこと、20代の頃にはあった気がします。(嫌なことは忘れてしまうのでおぼえてはいない。)
他にも、いわゆる「働き方」に関して、管理職、学年主任、一緒に組んでいる先生がどういう意識でいるかも、自分の忙しさに大きく影響します。業務時間内でできる程度を超えないように業務量を調整できる先生と一緒に働くか否かで、サービス残業時間が果てしなく変わります。学校や先生によっては、業務時間外に会議を設定することがふつうになっていたり、また、そもそも業務時間外のサービス残業ありきで物事を考えていたりするものです。
というわけで、まとめると、「教員の業務は『対人間』業務であるため、個々の教員の力では時間のコントロールが難しい。よって、1日空きコマ1つでは業務時間内に業務を終えられません」ということです。
「業務時間内に業務を終える」にはどうしたらいいでしょうか。「授業担当コマ数」を減らして、「授業以外の業務をするためのコマ数」を増やすことが必要かと私は思います。つまり、見た目としては「空きコマを増やす」ということなのですが、大切なのは、「個々の教員が自分でコントロールできる時間を増やす」ということです。私の今までの経験では、私が「自分でコントロールできる時間」というのはほとんど17時前後以降の「業務時間外」でした。それですら、右から左から声がかかって、思うようにならないことも珍しくありませんでした。授業時数が週16コマほどだった年もあったのですが、空きコマに分掌の打ち合わせ、説明会・説明会準備、学校案内、教科会議などが入り、いっそ授業をしていた方がよほど業務的負担が少なかっただろうと感じていました。そういえば、その年は3つの学年を担当していたので(中1・高1・高3)、授業準備も今より大変でした。
話がグルグルしますが、ではこの「個々の教員が自分でコントロールできる時間を増やす」ためにはどうしたらいいかというと、それはやっぱり「空きコマを増やす」ところから始めるしかないと思います。そして、空きコマの内のいくつかを、完全な「自分が使いたいように使える時間」として決めてしまうのがいいのではないでしょうか。
この件についての解決方法には、浜田博文先生が(Twitterでは)数年前から何度か言及されています。(冒頭で引用したベネッセの記事も同様の論調でした。)
とりあえず何度でも書くけど、1校あたりの授業コマ数の合計を算出し、教員1人あたり1日4コマを上限にして、学校あたりの教員配置数を算出するべき。
— 浜田博文 (@redondo875) December 28, 2019
学校の働き方改革では給特法廃止と部活強制排除が関心集めてるが先を見通した解決方法になるわけじゃない。教職員配置の基礎条件を、学校あたりの学級数から学校あたりの業務量(授業コマ、、授業準備、採点・評価、会議、校内運営など)&職員あたりの勤務時間にシフトする仕組みを提案する必要あり。
— 浜田博文 (@redondo875) August 14, 2017
教員配置基準の中に、一人が1日に担当する授業コマ数とそれらの準備時間、会議時間を全て組み込む必要がある。そうすれば、授業時間数を増やすために教員数の増大が必須になる。学習指導要領の議論の中でも教員の業務負担を考慮させるべきだ。 https://t.co/OXZLc5E3M9
— 浜田博文 (@redondo875) July 7, 2017
「教員数の増大」は、「働き方改革」がまともに成功するためのカギではないかと私も思います。先につまらないコピーロボットのジョークを書きましたが、主旨は同じです(えっ?)。それが実行されるためには、政府や地方自治体が学校教育につける予算を増やす必要があり、今のように社会全体が不況を経験している状況では特に、楽観的になれないのが残念です。でも、長期的なプランのある政府や自治体であれば、不可能なことではないはず。
上でまとめたように、教員の業務はほとんど常に「人間」相手に行われているので、コントロール不可能な要素がそこここに存在しています。その「コントロール不可能性」を考慮した上でなお業務時間内で業務が終わるように文科省や教育委員会が教員数を設定してこそ、実現可能かつ意味のある「働き方改革」が見えてくるのではないでしょうか。
まともな増員をせず、今いる人員に今ある問題を今ある労働環境下で変えろというのは(現状)、私が感じている限りでは、無理です。
何とも言えない感じで終わってしまいました。さ!それではまた次回まで。Happy teaching, my friends!!