先生のためのアイディア帳

効果的な指導法やエトセトラについて

セントラル・デザイン(Central design)とは何か

こんにちは。

 

月日の経つのは早いもので、5月ももう後半ですね。前回の更新から今日までの2か月の間に、UBCでの修士課程を修了し、1年8か月間住んだカナダを離れ、日本へ帰ってきました。2020の3月までは非常勤講師としてどこかの学校に置いてもらえたらと思っていますが、それが決まるまではもっぱら教員採用試験と英検のための勉強、趣味の勉強、家族のアレコレがメインになりそうです。

 

そんなわけで、人生夏休みモードに腰までどっぷりつかってしまっており、最近はだいたいのことに対してハングリーになれません(笑)。せっかくカナダで運転を始めたので、日本でも運転をすることに決めて、ここ2週間ほど家族の車で練習をしていますが、それが今一番努力していることだというくらい、チルった毎日を送っています。相撲とかゆっくり見ちゃいます、全然。(それにしても、日本、道が狭い…トンネルが多い…バックで駐車…)

 

と、要らぬつぶやきが長くなりましたが、今日は「セントラル・デザイン」についてです。前回のエントリーで参照したRichards (2013)だけを文献にしてそこからあれこれ考察していくのでかなり盲点が広くなるかもしれませんが、というか、そもそも自分の備忘録程度にしかならない可能性が高いのですが、あらかじめご容赦ください。

 

以下の順で進めていきます。

  1. セントラル・デザインとは何か
  2. セントラル・デザインの利点
  3. セントラル・デザインの弱点

「セントラル・デザイン」というのは「カリキュラム・デザイン」の一種です。「カリキュラム・デザイン」とは何か、ということは前回のエントリーでゆるく定義してありますので、関心のある方はそちらをご覧いただくのもいいかと思います。もちろん、「カリキュラム・デザイン」で検索した方がいいという話もあります。

 

とは言っても、「セントラル・デザイン」は単元・学期・学年単位という大きな枠組みよりは、毎時の授業単位という小さな枠組みに関わってくるので、「カリキュラム・デザイン」の一種というよりは、「授業計画」の立て方の一種ととらえておくので十分かもしれません。

 

1.セントラル・デザインとは何か

セントラル・デザインの雰囲気を理解するのにぴったりな文があるので、まずはそれのご紹介から。

Despite the approach they have been recommended to use in their initial teacher education, teachers’ initial concerns are typically with what they want their learners to do during the lesson. Later their attention turns to the kind of input and support that learners will need to carry out the learning activities. (p.14)

 

教員養成課程でもともと勧められていた指導法が何であれ、ふつう教員は「授業中に学習者に何をしてほしいか」をまず気にします。そしてその次に「それらの学習活動を学習者が行うためにはどんな情報やサポートが必要か」ということを考えます。(訳と「」による強調:私)

 

これを読んだだけで、「おお、これ知ってる!」な感じがありませんか? 一応図でも表してみます。

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Richards (2013)の論文の中にある図の用語をわかりやすくしただけの図なのですが、かえってわかりにくいかもしれません。それでも、上の引用文をふまえて見ると、なんとなく伝えようとしていることが感じられたりしないでしょうか。

 

自分が英語科の教員だからかもしれませんが、この「授業中に学習者に何をしてほしいか」から始めてそこから授業を組み立てるというこれ、わりとよくあるように私には思えます。

 

たとえば、中3の授業について「このところ読む・聞くばっかりだから明日はしゃべらせたいな。じゃあ、ビンゴを使ったインタビューをクラス全体でやろうか。(5×5のマスの中にいろいろな文言が書いてあって、それに当てはまる人が見つかったら該当するマスをチェックできて、それでビンゴを目指すゲームです。)うまくいかせるには語彙力も必要だから、授業の最初に5分間一緒に練習して、3分間でオンライン辞書の使い方も練習して、わからないところは質問してもらって、…」というふうに組み立てていくとき、これはセントラル・デザインを使った授業の計画の仕方だと言えると思います。

 

さらに極端な例だと、「あのインタビューのゲーム、いつも盛り上がるから明日はあれにしよう。じゃあ、そのためには…」という場合もあるかもしれません。

 

いずれにしても、上記のような授業では「生徒がたくさんのクラスメートと英語で話をしながら情報交換をする」という学習活動が行われているわけですが、セントラル・デザインにおいては、この学習活動(①どう教えるか)というのがデザインの肝になります。その学習活動において教員が生徒にどんな知識や技能を教えるか(②何を教えるか)、また、生徒が具体的に何をできるようになるか(③何を学ぶか)というのは、学習活動を行った結果、自然についてくるもののようにみなされます。

 

ここでは、「②何を教えるか」はインタビュー中のやり取りで使われる語彙や表現でしょうし、「③何を学ぶか」は生徒それぞれがインタビューを通してできるようになったことになります。

 

そんなわけで、しつこいようですがもう1つ引用を入れてまとめると、

What they [approaches using Central designs] have in common […] is the priority they attribute to learning processes, classroom participation, and the role of the teacher and the learners in creating opportunities for learning. (p.20)

 

一般的に、セントラル・デザインを用いた指導法は、学習の過程、授業への参加、そして、教員と学習者が学びのための機会を作り出すことを重要視します。(訳:私)

ということになります。

 

2.セントラル・デザインの利点

Richards (2013)がそう言っているわけでも何でもありませんが、セントラル・デザインの利点は2つあるように私は思います。

 

1つ目は、教員にとっての使いやすさです。

Teachers were much more likely to visualize lessons as clusters or sequences of activities … (p.14)

 

教員は授業を一続きの学習活動として視覚化してとらえる傾向が強い。(訳:私)

 

確かに言われてみると、「最初の5分で自由に発言させながら、前回の復習。その後、今日の単元の内容について引き続きいろいろ言いたいことを言ってもらって、そこから今日のポイントを一言で説明して、そこから教科書のターゲット・センテンスを見て発音練習。次に、ワークシートを配ってリスニング…」というふうに、私も50分間の授業を学習活動の連続としてとらえています。これまで意識したことすらありませんでしたが。

 

Richards (2013)が参照した研究結果では、教員がセントラル・デザインを用いて授業計画を行うことはだいぶよくあるのだそうです。

 

これはただの私の見解ですが、たとえば、大人数のクラスで授業を行う場合には、教員はその大人数の行動をある程度管理する必要があるので、「学習活動をいくつも連続させていくことで50分間の授業を計画する」というやり方は特に重宝されそうな気がします。

 

2つ目は、学習者が主体となった学びの経験を生み出せることです。

The purpose and content of a course ‘will vary according to the needs of the students and their particular interests’ (Krashen and Terrell, 1983: 65). (p.16)

 

授業の目的と内容は生徒のニーズと関心によって変化します。(訳:私)

 

上の図にある通り、セントラル・デザインにおいては、授業計画をする際に最初にしっかり決まっているのは「①どう教えるか」、つまり「学習活動」、あるいは学習者目線で言うと「何をするか」だけです。言い換えれば、「②何を教えるか」、つまり「学習内容」と「②何を学ぶか」、つまり「学習目標」はものすごくフレキシブルなわけです。

 

探究型学習や卒業プロジェクトといったいわゆる生徒主体型のプロジェクトなどがよい例かと思います。

 

3.セントラル・デザインの弱点

一言で言うと、「オープンすぎる」ところでしょうか。言い方を変えると、「これ、評価どうするの?」という。

 

私はバックワード・デザインやexplicit instructionが個人的に大好きなので、セントラル・デザインほど「学習内容」と「学習目標」がオープンだと、たぶん授業をしていて評価のことが心配になると思います。途中途中のformative assessmentとフィードバックも、最終的なsummative assessmentも効果的にできる自信がありません。

 

ただ、実際には、単元・学期・学年単位の「カリキュラム・デザイン」は「バックワード・デザイン」でしてあって、日々の授業は「セントラル・デザイン」で計画するというのが一般的なのではと勝手に推測しています。そうすれば、何もかもオープンには成り得ませんので、そのクローズドになっている部分に依って立ちながら、教員がリードする部分と学習者がリードする部分とのバランスをとっていけるのだと思います。

 

さて、「セントラル・デザイン」、いかがだったでしょうか。先生方が「カリキュラム・デザイン」や「授業計画」をされる際に何か使っていただけることがあったらうれしいです。

 

次回は、私がどれだけバックでの駐車に苦戦しているかについて書きたいと思います(half serious, half joking)。それではまたその時まで。

 

Happy teaching, my friends!!

 

参考:

Richards, J. C. (2013). Curriculum approaches in language teaching: Forward, central, and backward design. RELC Journal, 44(1), 5-33. doi:10.1177/0033688212473293

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