こんにちは。
今日『学校アップデート』を読んでいたところ、デジタル・シティズンシップに関係し得る話題が少し出てきていたので、これを機に重い腰を上げて、(私に有用な)情報をこちらにまとめることにしました。
というのも、ICT後進校である我が勤務校は、休業期間中にいろいろなもの(濁す)に背中を押されて「とりあえず教員も生徒もICTを使ってみる」という段階にやっと片足を入れたくらいなので、デジタル・シティズンシップのような、「ヴィジョン」みたいな、「方針」みたいな、そういうものを持っていないんですよね。まして、そのヴィジョンが実現されるようにそれを具体化したものもない。
「そういう大きい話、今は要らないんで!目の前のことで忙しいんで!」と言いたい向きもあるとは思うのですが、私がこれまで研修で行かせてもらった国内外の学校(←もちろん成功例)は、どこもちゃんと「ヴィジョン」から始めていました。要は、「教育へのICTの活用」のように、前例のないことをやろうとする場合、教育方針に根差した確たる「ヴィジョン」を持っていないと、迷走するんですよね、たぶん。
と書いていて急にこのTED Talk(TEDx?)を思い出しました。「なぜそれをするのか」がないと人は動かないのだ、というやつです。「何をするのか」「どうやってするのか」が先に来ていてはダメだ、と。(余談です。)
そんなわけで、私の勤務校でそのまま使えそうなデジタル・シティズンシップ的なもの(できれば生徒にとっての具体的な行動目標になるようなもの)を作りたいと、4月からずっと思っていたのでした。
ちなみに、『学校アップデート』では、文部科学省の用語に統一しているからだと思いますが、「情報モラル」というふうに言っていますね。これ、知らなかったと言ったら怒られそうですが、知りませんでした。
第一に参考にするのはこちらです。
「『教育の情報化に関する手引』検討案」の「第5章 情報モラル教育」
まず、「情報モラル」の定義を見てみましょう。
「情報モラル」とは
学習指導要領では、「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」を「情報モラル」と定め、各教科の指導の中で身につけさせることとしている。
「日常モラル」と「情報モラル」
情報モラル教育の目標は、道徳などで扱われている「日常生活におけるモラル(日常モラル)の育成」と重複する部分が多く、これは情報モラル教育の基本となる態度の育成に欠かせない。
しかし、日常の社会では、個人、家庭、地域社会と順に経験しながら、ゆっくりと時間をかけてその関係を理解していくことができるのに対し、情報ネットワークでは、端末を利用したコミュニケーションを開始するとすぐに、見えない人とのつながりや社会との接点が同時に生じる部分が異なる。従って、情報端末を利用するにあたって、危険回避を行うための具体的な教育が必要な一方、情報化社会の特性やネットワークの理解を深め、自分自身で正しく活用するために的確な判断ができる力を身につけることが必要である。
(下線:私)
次に、「情報モラルの指導」がどう説明されているか見てみます。私は中学校の教員なので、「中学校における指導内容」という部分を見てみます。
ここで名前が挙がっているのは、社会、保健体育、技術・家庭、外国語、道徳という5教科、および総合的な学習の時間と特別活動です。道徳が一番詳しいので、逆に(逆に?)それ以外を見てみましょう。以下、私による雑な要約です。(※特別活動に関しては、文章が意味不明瞭で要約できなかったため、引用しています。)
社会
公民的分野の内容では、内容として情報モラルの大切さを学ぶ。また、資料や情報を活用する学習活動では、著作権等に関する倫理的な指導が可能。
保健体育
コンピュータの心身への影響について理解させる。
技術・家庭
デジタル化された情報の扱い、および、情報通信ネットワークの仕組みに関わる情報モラルの指導。
外国語
海外との交流学習や情報通信ネットワークの使用を通じて、生徒一人一人が主体的に世界とかかわっていこうとする態度を育成することが可能。
総合的な学習の時間
情報活用の実践力の育成を伴うような実践事例を紹介する。
特別活動
教科の指導では難しい、安全・安心に関する分野の指導をスポット的に取り扱っている事例を紹介する。
いやー、もうどうしてもこちら↓に似た状態になります。
「特別活動」…スポット的に…何なの…。頭の中で黒塗りにしても、残った部分が結局意味不明瞭だと、「あれ?もしかしてわかってほしくて書いてるわけじゃないのかな?」と思ってしまいます。この文書に限らず、日常的に上から降ってくるお知らせはこの手の調子のものが多くて、わかりやすい文章しか理解できない私にとってはハラスメントです。(と言いながら、自分がわかりやすい文章を書いている自信はない。残念!)
さて。気を取り直して道徳を見てみます。こちらはそのまま引用します。
(略)情報モラル指導モデルカリキュラムに示されている「情報社会の倫理」、「法の理解と遵守」、「安全への知恵」、「情報セキュリティ」、「公共的なネットワーク社会の構築」などを踏まえ、個人情報の保護、人権侵害、著作権等に対する対応、危険回避などネットワーク上のルールやマナーなどが考えられるが、単に知識や対処を教るのではなく、生徒が考えたり、話し合ったりする時間を設定しながら自ら判断し、対処できる力や態度を身につけることが必要である。
中学校の段階での具体的な目標としては、次のような項目が考えられる。
- 情報社会への参画に責任ある態度で臨み、義務を果たす
- 情報に関する自分や他者の権利を理解し尊重する
- 情報社会のルール・法律を知り、遵守する
- 情報に関する危険を予測し被害を予防する
- 情報を正しく安全に活用するための知識や技術を身につける
- 自他の安全や健康を害するような行動を制御できる
- 情報セキュリティに関する基礎的基本的な知識を身につける
- 情報セキュリティの確保のために、対策・対応がとれる
- 情報社会の一員として公共的な意識を持ち、適切に判断し行動できる
これでよくないですか? これを中学校の教育課程共通の目標とした上で、上述の教科や領域に割り振った方が、すっきりするような気がするのですが。
欲を言うと、すっきりさせられるものはすっきりさせたい派の人間としては、もうちょっと手を入れたいですね。繰り返しや曖昧さを省いて、こうするのはいかがでしょう。
≪社会参画≫
- 情報社会の一員として公共的な意識を持ち、適切に判断し行動できる
≪ルール≫
- 情報に関する自分や他者の権利を理解し尊重する
- 情報社会のルール・法律を知り、遵守する
- 自他の安全や健康を害するような行動を制御できる
≪リテラシー≫
- 情報を正しく安全に活用するための知識や技術を身につける
≪セキュリティ≫
- 情報セキュリティの確保のために、対策・対応がとれる
ここまで来ると、ISTEのdigital citizenshipとの類似性も見えてきます。というわけで、第二の参考資料はこちらです。
以下の9つは、このポスター中の右半分の訳です。いずれも、「よきデジタル市民は」に続く文言です。原文にはない「ICT」という語を使いながら訳しました。 “digital” は直訳では 下の辞書の第7定義にある“electronic”(電子技術の)なのだとは思いますが、それよりは「ICT」の方が近いと感じたので。
よきデジタル市民は
- あらゆる人が平等にICTを利用できることを支持する
- オンライン環境において、他者を尊重し、決していじめ行為をしない
- オンライン環境において、人の作ったもの、身分、財産を盗んだり傷つけたりしない
- ICTを用いてコミュニケーションをするときは、適切な判断をする
- よりよく学ぶためにICTを活用し、変わり続ける技術に遅れを取らない
- オンラインで何かを購入するときには、責任をもって決断し、個人情報を守る
- オンラインのあらゆる発言の場で、基本的人権が守られることを支持する
- 有害な他者から個人情報を守る
- ICTを使うことによる精神的・肉体的なリスクを積極的に減らす
(訳:私)
こちらのポスターを実際に使ってみたいという方は、以下のリンクから10ドルで購入できます。(ISTEの関係者でもなんでもないのですが、こういう文脈がある以上、違法な複製を防ぐ方向に話を持っていくのが道理かと…)
無料ダウンロード可のものですと、ISTEはdigital citizenshipに関しては別のインフォグラフィックも出していますので、あわせてご紹介しておきます。
こちらは5項目です。それぞれの項目を訳したいのはやまやまなのですが、“I’m” に続く英語は、深いことを1語でバシッと言っているのが標語としてのミソで、ここをあーだこーだと説明して書いてしまうともったいないので(思い入れ)、その下の文のみ訳したいと思います。
- I’m inclusive. 私は、尊敬と共感をもって、他の人に接します。
- I’m informed. 私は、インターネット上の情報が正確か、誰が何のために発信したか、信頼できる情報か、判断します。
- I’m engaged. 私は、ICTをよりよい学びと暮らしのために使います。
- I’m balanced. 私は、自分の時間を大切にし、計画的にオンラインとオフラインの活動を行います。
- I’m alert. 私は、自分と他の人がどちらも安全でいられるようにします。
(訳:私)
文科省の道徳の文言と、ISTEのポスターとインフォグラフィックの文言。似たことを言っている感じがだいぶします。この3つを叩き台にして、各学校が生徒に合った内容・言い回しに整えれば、「できたー!(ビストロSMAP風に)」になりそうではないでしょうか。
文科省の道徳の文言は「生徒にわかりやすい具体的な目標」としては10点満点で3点くらいだと思うので、これをもっと言い換えていく必要があって、そのときにISTEのポスターとインフォグラフィックの文言はとても役に立つと思うのです。
というわけで、私にとって有用な情報がまとまったので、今日はここまでとしたいと思います。それではまた次回まで。Happy teaching, my friends!!