こんにちは。
今日は教育の「流行り」についてです。
教育現場の真っただ中で日々格闘していると、自分がしている教育活動が自分独自のもの、もしくは自分が所属している教科会や学校独自のもののように感じられることがあると思います。この「感じ」はある程度正しそうですが、でも残りのある程度は、実は自分が生きているその時代の教育の「流行り」を反映させているに過ぎないかもしれません。
そんなわけで、今回は歴史音痴の私が一生懸命教育史らしきものに言及するので、それを助けてくれる本の紹介から始めます。
Flinders, D. J. & Thornton, S. J. (2004). The Curriculum Studies Reader (2nd ed.). New York, NY: Routledge Falmer.
この本は北米の教育に大きな影響を与えた(ている)研究者の代表作をまとめたアンソロジーです。要は、アメリカ教育思想史ですね。(私は今カナダの大学院で勉強していますが、授業で扱われる文献はアメリカの研究者によって書かれたものがほとんどです。ちなみに、私の日本の教育史に関する知識・理解はゼロに近いので、いつか日本の教育史も勉強したい…)
さて、この本の目次はオンラインで確認できると思うのですが、こんな人たちが出てきます。
Franklin Bobbitt
John Dewey
Ralph W. Tyler
James Popham
Paulo Freire
Maxine Greene
Michael W. Apple
Elliot W. Eisner
Nel Noddings
あらためてこのラインナップを見てみると、これ、20世紀の始まり前後から今現在までしかカバーしていませんね。それでも、この短期間にも波のように教育の「流行り」が変遷しています。
- 世界恐慌期:民主主義と資本主義に潜む不正義への批判的視点から、社会科のカリキュラムが活動家的な性質を帯びる。
- 第二次世界大戦期:社会が保守化し、教育が持つ活動家的な側面が薄れる。
- 冷戦期:国防のために、数学、科学、外国語学習が重宝される。専門家によって、根拠に基づいた方法で、教育が成功に導かれることへの期待が高まる。
本の中で21世紀以降がまだ上記のようにラベリングされていないのは、おそらく21世紀以降が「現代すぎる」からだと思いますが、それでもそのうち「技術革新」「人とモノの流動性」「多様化」などがキーワードになってそれらと教育との結びつきによって何らかのラベリングがされるような気がします。(もし私が読み落としているだけだったらすみません!)
あとは、ここまで大きな社会的事象がなくても、教育に「流行り」はできます。それは、教育界が常に「教育改革」「学校改革」を行っているから。「教育界はいつも学校改革をしている」と批判していたのはこの本の中だとアイズナーだったと思いますが、これは私のような平教員にはピンとこなかったとしても、彼のように第一線にいる教育のリーダーたちにはまぎれもない現実だと思います。
で、いつも学校改革をしていると何が起きるかというと、たぶん次の2つではないでしょうか。
- 現在の教育方法やそれを支える価値観の見直し
- 他の成功している分野・業界の方法論や価値観を取り入れる
で、これは私が大いに頷いた部分で、でも誰が言っていたかは忘れてしまったのですが、ここで教育界がやってしまうのが「全取っ替えに走ってしまうこと」なのだそうです。例えば、他の業界であれば「Aの欠陥を改善して、A-1-1を試作してみましょう」となるところを、教育界は「Aには欠陥があるので捨てて、Bに行きましょう」と行ってしまうと。
で、これがどんな「流行り」の波を作るかというと、私が予想するのは、何かしらの二極の間を常に行ったり来たりするタイプの波です。たとえば、「つめこみ」と「ゆとり」とか、「知的教育」と「情操教育」とか。英語という教科で言うと、「文法重視」と「コミュニケーション重視」とか。現行の教育活動のうまくいっていない箇所に注目しては、それを切り捨て、新しい成功モデルを採用し、また不具合を見つけ、それを切り捨てる。
で、ここに社会の大きな流れが合流すると、「ICTを活用しながら生徒の個性を生かした学習を実現する」といったような、さらに一段階大きな教育の「流行り」ができるのではと。
そんなこんなで、「大きな社会的事象×教育界の恒常的な学校改革」が一人一人の先生の日々の意思決定や実践にある程度は影響しているのではというのが私の考えです。
学校現場というのは年がら年中アホかというくらい忙しくて、それは先生方が常に問題や課題に直面しているからなのはもちろん、児童・生徒・学生や彼らの保護者、または同僚や管理職や地方自治体が「スピーディーな解決」を求めてくるからだと思います。直接そう言って迫ってくる人は珍しくても、少なくとも、先生たちはそのプレッシャーを実感していると思います。
そんな場合に、目の前の問題や課題について思いつく解決策を挙げた後で、そこにどんな根拠があるか、それがどれくらい今の流行りに影響されているのかをチラリと確認できると、より効果的な意思決定とその実施ができるかもしれません。それが、児童・生徒・学生とのかかわり方であっても、シラバスや授業案の作成であっても、それこそ学校改革であっても。
次回はこれに関連したことをさらに書きたいと思います。それではまたその時まで。
Happy teaching, my friends!!
参考:
Flinders, D. J. & Thornton, S. J. (2004). The Curriculum Studies Reader (2nd ed.). New York, NY: Routledge Falmer.