先生のためのアイディア帳

効果的な指導法やエトセトラについて

ルーブリックとは何か(その定義と具体例)

こんにちは。

 

今日はルーブリックについてです。ルーブリックとは何かということをルーブリックの例を見ながら説明したいと思います。その前に、まずはルーブリックの定義を。

At its most basic, a rubric is a scoring tool that lays out the specific expectations for an assignment. Rubrics divide an assignment into its component parts and provide a detailed description of what constitutes acceptable or unacceptable levels of performance for each of those parts. (Stevens & Levi, 2013, p.3)

基本的に、ルーブリックというのは、ある課題(への取り組み)に対する具体的な期待値を記載した採点のためのツールである。ルーブリック上には、その課題を構成する要素が分類されて書かれており、各要素につき、どの程度の取り組みなら十分でどの程度の取り組みだと不十分とされるのかが詳細に記載されている。(訳:私)

 

なるほど。では、最初は日常的な例で考えてみます。私事ですが今カナダで2度目の冬を迎えているところなのでそれにちなんで…(なんのことやら)

 

課題例:カナダで冬を無事に越すためのウィンターブーツを選ぶ

 

4ポイント・ルーブリックから始めてみます。

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縦軸に「課題を構成する要素」があり、横軸に「取り組みのレベル」があります。私が生徒である場合、先生から(何の先生なのか想像もつきませんが)このルーブリックを最初に渡されます。そして、私はこの基準を満たすか超えるかするためにブーツを選びます。そして、私が選んだブーツを先生のところにもっていくと、先生はこのルーブリックの該当箇所に〇をつけるなりマーカーで線を引くなりして、私の取り組みを評価します。基準を満たしていない場合には、ルーブリックを見れば「なるほど、暖かさが足りないのか」などと改善すべき箇所が見ればわかるようになっています。その評価を受けた後で、私は返品+やり直しをするかもしれませんね。

 

ただ、これ「1」が本当に必要なのかという疑問があって、というのも、ルーブリックをもらって「よし、この基準を満たすぞ」と意識して課題に取り組んでいる以上、「1」に該当するような取り組みが出てくることは少ないからです。しかも、実際には、先生は生徒の取り組みが改善していくように要所要所で手助けをしているはずなので、それで「1」という状態は自然と稀になります。そこで、3ポイント・ルーブリックです。

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すっきりしましたね。もっとすっきりさせたいですか?シングル・ポイント・ルーブリックというのがあります。

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これだと、チェックリストのように「OK」「NG」をチェックした後に、フィードバック欄に詳細を書き込むことになります。特に「NG」とチェックした後には、何をどうすれば「OK」になるのかを書くことが必須です。生徒の学びの改善につながらない評価には評価の意味がないので。このルーブリックだと取り組みを数値化していないのですが、もし数値化したければ以下のようにできます。

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ルーブリックは、究極的には、「生徒の学び」と「先生の指導」に役立っていればいいので、上記の4つをアレンジしながら別のバージョンを作ることができます。

 

では、これを実際の指導の例に当てはめるとどういうふうになるでしょうか?そして、この4種類の中だったら、どれが一番使いやすいでしょうか?シングル・ポイント・ルーブリック+スコアの形式で英語のパラグラフ・ライティングのためのルーブリックを作ってみました。こんな感じです。

 

課題例:英語のパラグラフ・ライティング

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で、ここから遡っていけば3ポイント、4ポイントのバージョンができます…と言いたいところですが、私は4ポイントは作れませんでした。というのは、課題がシンプルなので、4段階分も取り組みの差が想定できないからです。特に、先生が課題の途中で生徒をサポートすると考えると、「未提出」とか「1文しか書いていない」のような「基準から大きく離れている」状態はありえません(というかあってはいけません)。

 

で、実は3ポイントもうまく作れませんでした。これの理由は、「生徒が基準を上回る」場合でも「下回る」場合でも、いろいろな状況が考えられるからです。もちろんそれらすべてを想定してルーブリックに記載する必要はなく、あくまで「よくある基準の上回り方」「よくある基準の下回り方」だけを記載すれば十分です。それでも、かなり文章が多いルーブリックになってしまい、そうすると「生徒がルーブリックを読まない問題」が懸念されてくるのです。ルーブリックの研究でも「生徒はルーブリックを熟読しない」という結果がよく報告されていて、それは私が今カナダで学生としてルーブリックを配布される側の経験をしてみても頷けるところです(ごめんなさい)。

 

また、今書いた通り、ルーブリック上にあるのは、基準を上回るにしても下回るにしても、あくまで「よくある取り組み状況の例」なので、実際に生徒を評価する際にその生徒の取り組みを表す的確な表記がルーブリックの中に含まれていない場合というのはごく普通にあり得て、そうすると結局先生はフィードバックを手書きで書き込むことになるわけです。4ポイントも3ポイントもその作成にそれなりの時間がかかりますが、それが結局使えずコメントを書き込むことになるという労力の無駄使いが発生してしまいます。

 

そんなわけで、最近はシングル・ポイント・ルーブリックに注目が集まっています。私の大好きなCult of Pedagogyのこちらのブログ記事でも紹介されています。(LOVE you and thank you, Cult of Pedagogy!!)

 

ルーブリック、私は日本では学習者としても教員としても一度も使ったことはありませんでした。表みたいな見た目のものでルーブリックと呼ばれるものがあると見聞きしたのが2013年頃で、でも、日頃の授業で使う評価ツールだとは全然知りませんでした。たぶん私が最初に見たルーブリックは、学校のパフォーマンス評価をするためのもので、内容が具体的なようでいて曖昧だったのでピンと来なかったのだと思います。

 

カナダの大学院に来てからは、全授業でルーブリックを使って評価が行われています。学期初めにシラバスが配布されるとそこに「各課題の詳細+各課題のルーブリック」のセットが記載されている感じです。

 

Huang & Gui (2014) も論文の中でこんなことを書いています。

The above review reveals a contrast between the dearth of research in mainland China and Taiwan and the popularity of investigation and applications of rubrics in western educational settings. (p.127) 

上記の先行研究のレビューでは、中国および台湾におけるルーブリックに関する研究の少なさと西洋の教育現場におけるルーブリックの研究と応用の多さの差が示された。(訳:私)

 

これは日本にも当てはまっているかと思います。私が勝手に思うのは、いわゆる西洋の教育は「アカウンタビリティー(説明責任)」を重視していることが多く、それがルーブリックの利用の背景にあるのでは、ということです。上場企業などと同じように、学校や先生は「何のために何をどんなふうにしてそれでどんな結果が出てそれをどう評価してどう次の活動につなげているか」を説明できなければいけないわけです。生徒や保護者にはもちろん、必要であれば地域や自治体に対しても。中国・台湾のことは全然わからないのですが、少なくとも日本の教育は、このアカウンタビリティーへの意識は学校によってかなりまちまちなのではという気がしています。

 

やー、ちょっとびっくりするくらい長くなってしまいました。でも次回もさらに続けてルーブリックについて何か書きたいと思います(しつこい)。それではまたその時まで。

 

Happy teaching, my friends!!

 

参考:

https://www.cultofpedagogy.com/single-point-rubric/

Huang, Y., & Gui, M. (2014). Articulating teachers’ expectations afore: Impact of rubrics on chinese EFL learners’ self-assessment and speaking ability. Journal of Education and Training Studies, 3(3), 126-132.

Stevens, D. D., & Levi, A. (2013). Introduction to Rubrics: An Assessment Tool to Save Grading Time, Convey Effective Feedback, and Promote Student Learning (2nd ed.). Sterling, Va: Stylus.

 

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