こんにちは。
いきなりですが、やー、「人に理解して読んでもらえるように物を書く」って全然簡単じゃないですね。ここ2か月ほど身に染みてそう感じています。そんなわけで、今回のテーマは「物事の論じ方」です。
「人に理解して読んでもらえるように物を書く」。私の場合、これを英語でやろうとすると特にとんでもない時間と労力がかかってしまいます。最近は自分が英語で書いた物(4000 words程度)の手直し第2弾をしていたのですが、あっという間に3日経ってしまいました。でも、その前の手直し第1段はもっと苦しくて、丸1週間を要しました。おかげさまで毎夜8時間ぐっすり。雰囲気的には、町田康が言うところの「気絶眠」だと思います(飲酒なし)。(というか、カナダに来てからずっとこんな調子。)
手直しして手直しして、それでもまだ手直しする箇所が出てくると、自分がとても頑固な「物事の論じ方の癖」を持っていることがよくわかります。で、やっかいなことに、その「物事の論じ方の癖」は性格みたいなもので、自分ではなかなか正確に把握できないと同時に、万一把握できたとしても修正できない(笑)。
という愚痴は置いておいて、まずは、英語での文章の書き方(物事の論じ方)のお手本を見るところから始めます。やっぱりこれでしょうか。
- 「言いたいこと」をはっきり言う
- 「言いたいこと」の中身①
- 「言いたいこと」の中身②
- 「言いたいこと」の中身③
- 「言いたいこと」をもう一度はっきり言う
このハンバーガーが1段落を構成し、そして1章を構成し、さらに1本の論文を構成していると、英語の文章としては構成の面では文句なしに花丸がつきそうです。
この論じ方で書かれた文章を読むと、同じことを何度も何度も何度も何度も言われて「もういいから」な気持ちになりそうでもありますが、実際には、「わかりやすい文章だった」くらいの感想に落ち着くと思います。他人が「言いたいこと」というのは自分にとってはすごく新しい場合も珍しくなくて、そうなると1回や2回言われたくらいでは全然頭に入って来ませんからね。(この例にはならないのですが、自分が数Ⅱ を習っていた時のことがなぜか思い出されます…)
では、このハンバーガー形式がお手本だとして、何が問題になるのでしょうか。ずばり、「この形式を知っているのと実際にこの形式で書くのとは完全に別の話」だということです。(←すみません、完全に私個人にとっての問題です。)英語を勉強したり教えたりして長いので、私もこのハンバーガー形式にはずいぶん馴染みがあります。なのに、自分ではこの形式で書いているつもりでも、そうなっていない。繰り返しを省いて前に進んでしまったり、次の話題に移っていたりする。まじでなにこれ。
と疑問に思ったところで思い出したのがこちら。
私の指導教官がミーティング中に余談として教えてくれたのですが、彼はKaplan’s doodlesと呼んでいて、実際にそれが広く呼び名になっているようです。直訳すると「カプランの落書き」となりますが、うーん、「落書き」と呼ぶのは申し訳ない感じがします。考えに考えた末の矢印だと思うんですよ。
この5つの矢印は「文化別の物事の論じ方」を表したものです。アメリカの応用言語学者Robert Kaplanが1966年に発表した論文の一部です。(原文はこちら。)今だったらちょっとないような非PC(politically correct)な表現に加えて大雑把な一般化があるので、学説というよりは考える材料とか話のネタ程度に受け取った方がいいという見方がどうも今は一般的なようです。
この5つの「文化別の物事の論じ方」について、まとめがこちらの論文にあるので、それを訳してみます。
- North American (English) argumentative writing is linear, direct and to the point, with the thesis statement/claim at the beginning of the argument, and supporting arguments arranged hierarchically.
- Semitic argumentative writing (Jewish, Arabic, Armenian) presents the argument in parallel propositions, or embedded in stories, not in hierarchical progression.
- Oriental (Asian) argumentative writing approaches the argument in a circular, respectful, indirect, non-assertive, but authoritative way.
- Romance (and German) argumentative writing favor a digressive style that requires readers to follow the argument to its conclusion.
- Russian argumentative writing follows the Romance model, but with more freedom for dividing the pieces of the argument as the author proceeds to the conclusion.
原文を眺めていて目に入った感じだと(ちゃんと読んでいなくてすみません)、どうもここで言う「アジア言語」は中国語と韓国語で、日本語は含まれていないようです(p.10)。
じゃあこの5つの中で自分の物事の論じ方がどの言語に一番近いだろうと思うと、うーん。やっぱり「アジア言語」ですかね?でも、この「アジア言語」の論じ方のまとめ、これだけだと何を言っているのかわかりそうでわからなくありませんか?「直線的」に対して「円を描くように」、「直接的」に対して「間接的」、というふうに、「北米英語」と比較しながら定義されている感じは伝わってくるのですが。うーん。もし誰かが私の書いた物を読んで、「これ、ロシア語の論じ方だね」と言われたら「まあそうかも」と思うくらい、自分では判別がつきません。
とは言え、この5つの矢印から、「北米英語」の論じ方(その「直線性」や「直接性」)の方が実は独特なのだということはわかります。その他の4つでは多かれ少なかれ「わかりづらさ」、もしくは(「ロマンス語」の論じ方のまとめにある言葉を使うと)「読者が議論を追う必要」が生じます。これはいわゆる「読み手に責任がある(reader-responsible)」という状態ですね。一方、「北米英語」の論じ方では「書き手に責任がある(writer-responsible)」ことになります。読み手が書き手の「言いたいこと」を理解できない場合には、書き手がその責任を十分に果たしていないのだということになるわけです。
この5つの中で学術的に最も評価されやすい論じ方を選ぶとしたら、確実に「北米英語」の論じ方になるでしょう。学校教育でのライティング指導や学術関係の出版物を見れば一目瞭然です。英語がいくら世界語になっても、ここはちょっとやそっとでは揺るがなさそうです。上の参考文献では「北米英語の論じ方が優れているわけではない」と書かれていますし、他にもこういう意見は多くありそうですが、少なくとも学術分野においては今はまだ説得力に欠ける気がします。(言語帝国主義的な視点を踏まえると、そう言いたい心情はよくわかるのですが。)
そんなわけで、「非北米英語」の論じ方がしっかり身に着いてしまっている私は、自分のガタガタしたり途切れたりぐるぐるしたりする矢印をなんとか真っ直ぐ最短にすべく、大学院のプログラム修了までは泣きながら頑張るしかなさそうです。
「カプランの落書き」(でいいのか?)、何か機会がありましたら、どうぞ話のネタにしてください。
それではまた次回まで。
Happy teaching, my friends!!
参考:
http://www.theenglishstudent.com/blog/hamburger-writing-chart
https://tempus-unico.eu/images/LLL_training_London/LesleyCole_extract.pdf