先生のためのアイディア帳

効果的な指導法やエトセトラについて

2つの指導法をバランスよく使う:explicit instructionとimplicit instruction

f:id:ednotes:20181203054021j:plain

Photo by Lonely Planet on Unsplash

こんにちは。

 

ここまで「評価」についてずっとお話してきましたが、今日は視点を変えて、もう少し俯瞰的に指導法について書きたいと思います。

 

指導法というのは、星の数ほどとは言いませんが、細かく見ていくとたくさんあります。ですが、以下の2つのカテゴリーを用いるとどんな指導法でもそのどちらかに分類できます(たぶん)。さあ、今日の用語です。

 

explicit instruction(もしくはdirect instruction)

implicit instruction(もしくはindirect instruction)

 

文字通り、explicit instructionは「明示的」な指導法、implicit instructionは「暗示的な」指導法です。例を挙げてみましょう。

 

事例:リスニング力を鍛える

 

explicit instructionの場合:

  1. 「これからするのはリスニング力を鍛えるためのトレーニングですよ!」と活動の目的を示す
  2. なんなら「消える音に注目!」などと詳細に目標も示す
  3. ディクテーションやシャドーイングや大意把握など、具体的な活動を示す
  4. 先生は生徒が目標とするリスニングのレベルに到達しているかを評価し、フィードバックを与える

 

implicit instructionの場合:

  1. 「今日は英語の歌を歌いましょう!」
  2. 生徒がうまく歌えない箇所について発音を詳細に説明したり、集中的に繰り返したりする
  3. 生徒が歌えるようになるまで繰り返す

 

生徒目線で考えると、explicit instructionでは生徒は「あー、オレ今リスニングやってるわー」と明らかに認識できています。一方、inplicit instructionだと生徒は「あー、オレ歌ってるわー」ということはわかっても活動のねらいについては明らかには認識していません。

 

なるほど。ではこれ、「じゃあexplicit instructionとimplicit instructionのどちらがいいか」という話になりますかね? うーん…なりませんね。先生がどんな力を生徒につけたいのか次第で、2つの指導法を使い分けたりミックスさせたりすることが必要なだけです。

 

たとえば同じ英語学習でも、センター試験対策だったら、まず間違いなくexplicit instructionがメインになります。なぜか。学習活動の目標が「センター試験で8割正解すること」などと非常に具体的で、かつ、試験までの時間が限られているからです。限られた時間で結果を出さなければいけないとき、explicit instructionが好まれます。なぜか。explicit instructionは生徒を現在立っているところから目標地点まで、できるだけ回り道せずできるだけ早く到達させることを目的とした指導法だからです。

 

これがもし小学校英語で(すみません、小学校英語のこと全然わからないくせに文科省これだけ読んで書いています)、「児童を英語に親しませる」というのが目標だったら、implicit instructionがメインになる方がいいような気がします。というのは、explicit instructionだとどうしても「私は…今…英語を…勉強している…!」ということが自覚されるので、英語自体をじかに経験するというよりは「英語学習を経験する」ことになりがちだからです。

 

強調しておくと、大事なのはあくまでexplicit instructionとimplicit instructionのバランスです。そして、そのバランスは先生がよくよく考えた上で決められるべきだということです。「どんな経験が生徒の学びを向上させるか」、これを絶えず自分に問い続けることが必要になります。生徒は常に変わっていきますので。

 

最後に、前回のエントリーまでずっと話してきた「評価」の話題に今回のexplicit instructionとimplicit instructionの話題がどう関係するか、簡単に。

 

私がこれまで激推ししてきた「具体的な評価基準」ですが、これをexplicit instructionと組み合わせると、工場の生産ラインみたいな授業になる可能性が極めて高いです。「今日の目標は15時までにこれを100箱出荷! そのためにこれとこれとこれをして、これとこれが(以下略」という。これの問題は、生産性は高くても創造性の余地がゼロなところです。この授業にはもちろんメリットがありますが、すべての授業がこうなるべきかと聞かれれば私はNoと答えます。

 

では、「具体的な評価基準」をimplicit instructionと組み合わせることができるでしょうか? もちろんできます。上の例でいうと、「児童を英語に親しませる」という活動目標をより具体化して、しかし指導法としてはimplicit instructionをとる、というようなことになります。活動目標を具体化するというのは、つまり、「何をもって『児童が英語と親しんだ』と評価するのか」という基準を明確にするということです。相当いろいろ基準が考えられそうですが、たとえば、授業への出席とか多読の本の冊数とかでしょうか。ただし、先生は「めざせ、無遅刻無欠席!」とか「夏休み前までに多読50冊!」などといった直接的な指示はせず、あくまで、生徒の参加や活動を促す指導を行うわけです。

 

explicit instructionとimplicit instruction、いかがでしたか? この2つのバランスを意識すると、今日この後の授業がちょっと変わる気がしませんか?

 

次回もまた何か続きになることを書きたいと思います。それではまたその時まで。

 

Happy teaching, my friends!

Creative Commons License